「神父様。いつもありがとうございますだ」
「この町が無事でいられるのも神父様のおかげだ」
「ああ、ちがいねえ」
逃げる宛もなく、ここに居座ってしまった町民たちが次々に貢ぎ物を納めていく。信頼と信仰という価値のないものと引き換えに。ちなみにこの町が襲われないのは町の冒険者と俺が定期的に魔物を討伐しているからなだけである。
「ありがとうございます。神もお歓びでしょう」
俺はそう言って長年に渡って使用してきたスキル「偽善者の笑み」を発動した。
「神父様~!」
貢ぎ物を腕いっぱいに抱えながら歩いていると、俺を呼ぶ声がした。振り返ると、ナターシャという町娘が居た。
ふわふわとした銀色の髪と、透き通るような白い肌から、「森の聖女」と呼ばれている娘だ。
彼女の家は森の中にあり、そこで作物を作って暮らしている。
そう、作物を育てられるのだ、この廃れた土地で。しかも、魔物に襲われることもなく。普通はそんな事、出来るわけがない。
彼女には恐らく、「神力」がある。神力があれば、土地を浄化する事が可能だからだ。どこからやって来た少女なのかは、未だ分からないし、用心するに越した事はないのだが、どうも頭が弱いところがある。それが演技なのか、素なのかは不明だ。
「昨日という日も無事に生きる事ができました。これも神の御心なのですね!」
「ええ、そうですね」
そして筋金入りの信奉者なのだった。
俺は彼女の一挙一動に気を付けながら、昼食をともにした。
今のところ、彼女がこの町に害を及ぼす素振りはない。
俺は別に彼女が神力を使う所を見たことがあるわけではない。作物を持ってくるから、周りがそう讃えているだけで、神力が無くても汚染されていない土地であれば作物は育つし、どこかから作物を調達しているだけの可能性もある。その場合、彼女は我々の脅威となるのか、しっかり見極めなければならない。もし、これが人間に化けたモンスターであるなら、かなりの強者なのは間違いないのだ。ただの人間だとしても、森で住んでいると言うのが本当なら、同じことだ。今の神殿は、結界もないので、モンスターだろうが魔王だろうが問題なく出入りできる。神殿にいるからと言って、モンスターでないとは言えないのだ。
「そう言えば、森に新しい人がやって来ました」ナターシャがパンにバターを塗りながら言った。このパンに使われている小麦も、彼女が育てたものである。
森にはつねに新しい人が出たり入ったりしているので、恐らく旅人が来たとかそういう意味ではないのだろう。
「それは・・・住人と言う意味ですか?」
「はい、湖のほとりに・・・。女の人です」
森の中に住む女か。やはり同じように神力があるのだろうか。やっかいだが、農業従事者が増えるのはありがたい。
「魔女だと名乗っていました」
「ま・・・魔女」
魔女の定義は、曖昧である。しかし一般には、薬草学を極めた人間とされることが多い。森に住めるという事は、かなりの強者と考えてよさそうだ。あまり関わりたくないが、近くに来たからには動向を探らねばならない。
(それに「魔女」なら、薬を卸してくれるかも知れないしな)
色々と手遅れになる前にと、急いで昼食を喉に流し込み、その足で森へ向かった。