[chapter:娘と妻と私]
私には、妻と娘がいる。
大学時代にアメリカで出会った、現地の妻だ。
私は英文科だが、所詮ヒアリングなど赤子レベル。それでも何とかアタックし、ついに結ばれることができた。
唯一想定外だったのは、彼女が故郷を離れるつもりがなかったこと。
英文科は英語が母国語でないから価値があるのであり、私などアメリカでは無学のアジア人でしかない。仕事をするなら日本に限る。そうするとつまり自然に、新婚でありながら単身赴任という構図になるのだ。
妻との会話は、テレビ通話などがあるから特に寂しくはない。私の場合、筆談のほうがよっぽどコミュニケーションが取れるので、メールは逆にありがたいくらいだ。
問題は、生まれたばかりの娘である。
いくら通話ができるとは言え、知らんおっさんの顔を延々と見せられてもわけが分からないに決まってる。やはり、近くにいて、抱きしめたり、肩車したり、いっしょにご飯を食べてこそ、父娘の絆は生まれると思うのだ。特に彼女はハーフ。悩みも人一倍あるだろう。アジア人の親としてそばにいてやりたいし、ハーフとは言えアメリカに住んでいる以上「アメリカ人」なのだし、「日本人」の私を受け入れられるかも分からない。このままでは、永久的な溝ができる気がしてならない。
何とかしなければ…。そうこうしているうちに、世界は大規模なパンデミックに見舞われ、国家間の移動の制限が解け、私と彼女が直接会えるようになったころには、娘はもう8歳になっていた。